臨床検査技師は法律上認められた地位です。その分、一般の職業より、事故を起こしてしまった場合、民事責任、刑事責任、行政責任という3つの法的責任を負ってしまう可能性も高いといえます。事故は誰しも故意に起こすものではありませんが、いつ起こるかを予測することもできません。もしも…のときに備え、ある程度の知識を養っておくこともリスクマネジメントの第1歩です。

臨床検査技師の法的責任

臨床検査技師は、法律によって、その特別な身分が守られています。
一方で、その社会的使命を果たすうえで守らなくてはならない事柄や、行ってはならない事柄があり、これに違反すると法律に基づき下記のような責任を課されることとなります。

民事責任

臨床検査技師が負う民事責任

  1. 臨床検査技師が患者さんに対し負う責任
    民法709条(不法行為責任)
    1. (1)709条は、故意又は過失により他人の権利・利益を侵害した場合に、それによって生じた損害を賠償する責任です。過失とは臨床検査技師等に求められている注意義務に違反するものをいいます。この注意義務とは、【人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する者は、その業務の性質に照らし、危険防止のため実験上必要とされる最善の注意義務を要求される。その注意義務の基準となるべきものは、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である】最判(3小)昭57.3.30と判例で明示されています。
    2. (2)上記例:採血の際、臨床検査技師が、注射針を比較的深い角度で刺入させてしまい、患者さんの神経を損傷させ、臨床検査技師本人に損害賠償請求が行われた。
    民法719条(共同不法行為)
    1. (1)719条は、損害を及ぼした行為に一体性が認められる場合に、関与者全員が連帯して責任を負うというものです。
    2. (2)上記例:公的病院で、50代男性患者さんが肺がんと誤診され肺の一部を摘出されたため、一連の治療行為に加わった主治医、手術執刀医、担当病理医、実際に病理検査を行った臨床検査技師に対して、共同不法行為が存在したとし、患者さんから損害賠償請求が行われた。
    民法715条(使用者責任)
    1. (1)715条2項は、客観的に観察して、実際上現実に使用者(病院・病院長)に代わって監督する地位にある者は、715条1項の使用者責任を負うと規定したものです。このような代理監督者には、技師長がなる可能性があります。
    2. (2)上記例:40代の女性が、子宮がんの検診で細胞診の検査を受けたところ、陰性(class2)の結果としたが、患者さんが後日別の施設で検診したところ子宮頚部の進行がんであることが判明した。そこで、見落としをした臨床検査技師及び直接指示監督していた技師長にも、損害賠償請求が行われた。
  2. 雇用主(病院・検査センター)に対し負う責任
    民法715条3項(使用者の求償権)
    1. (1)715条3項は、雇用主が求償権の行使をすることによって発生する責任です。雇用主と被用者の労働条件等を勘案し、相当な限度での求償を受けることになります。
    2. (2)上記例:A医療法人で採血ミスがあり、左手に後遺障害が残ったとして患者さんから損害賠償を請求されたため、その法人は示談により損害賠償金を支払った後、その法人が持つ求償権を行使し、実際に採血を行った臨床検査技師に対して支払った損害賠償金の一部を賠償請求した。

民事責任参考図

臨床検査技師業務に関わる民事責任を図に表わしています。

刑事責任

臨床検査技師の刑事事故の現状

臨床検査技師の責任が問われると思われる刑事事故の現状を下記にあげておきます。

  • 刑事訴追された場合には、管理職(技師長)も管理責任を問われる可能性があるため、管理職と現場の臨床検査技師の間で利益相反する可能性があり、臨床検査技師が孤立する。
  • 民事的解決を有利に進めるために刑事訴追を行ったり、訴追をちらつかせるケースが増加している。
  • 警察・検察からのプレッシャーが大きく耐え難い。
  • 職場での就業が困難になる。

刑事裁判の流れ

事故の内容によってその対応は多様ですが、一般的な刑事裁判の流れを図に示します。

  1. 捜査の端緒
    1. (1)臨床検査技師が、何らかの過失により患者さんに身体的損害の侵害を与えた場合、業務上過失致死傷罪(刑法211条1項)にあたる場合があります。
    2. (2)捜査機関が、臨床検査技師に何らかの過失ありと判断した場合、捜査が開始されます。医療事故では、患者さんからの申告が典型的な例といえます。
  2. 捜査の開始 ・ 3.  送検
    1. (1)患者さんからの申告等から捜査が開始されることになりますが、この捜査というのは、証拠を集める捜査機関の活動をいいます。業務上過失致死傷罪の時効(刑事訴訟法250条2項5号)は五年ですので、五年間は患者さんからの申告により、捜査が開始される可能性があります。
    2. (2)警察は、捜査後、原則として書類及び証拠物と共に事件を検察官に送致しなければなりません。そして、検察官が事件を受理し、身柄拘束の必要性、相当性があれば逮捕(48時間)・勾留(最大20日)されることとなります。身柄拘束の期間を考えると、多大な精神的苦痛が生じ、また職場での就業に影響するでしょう。
  1. 公判請求(起訴)

    検察に事件が受理されると、検察官が、諸事情を勘案し、起訴すべきかどうか判断します。業務上過失傷害罪となる条件が備わっていても状況により検察官は起訴猶予という処置をすることができます。

  2. 公判・判決
    1. (1)起訴後、事件は裁判所の手元に移り裁判が進行します。裁判が始まりますと、身柄拘束を受けていなかった場合でも、裁判の公判期日での出頭という負担を強いられます。また、公務員が起訴された場合、無給休職となり、民間企業においても、同様の就業規則が課せられている場合があるので、経済的な負担も少なくありません。
    2. (2)日本の刑事事件の有罪判決率は高いので、有罪となり刑事罰を受けるおそれがあります。
    3. (3)刑事罰を受けると行政処分を受け資格を剥奪される危険が高まります。また、資格剥奪とまではいかなくとも数カ月の資格停止処分が下る可能性もあります。

行政処分

免許取消・業務停止処分

【臨床検査技師等に関する法律より抜粋】
第8条第1項「臨床検査技師が第4条各号のいずれかに該当するに至ったときは、厚生労働大臣は、その免許を取り消し、又は期間を定めて臨床検査技師の名称の使用の停止を命ずることができる。」
第4条第3項「第2条に規定する検査の業務に関し、犯罪又は不正の行為があった者」
第2条 この法律で「臨床検査技師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、臨床検査技師の名称を用いて、医師又は歯科医師の指示の下に、微生物学的検査、血清学的検査、血液学的検査、病理学的検査、寄生虫学的検査、生化学的検査及び厚生労働省令で定める生理学的検査を行うことを業とする者をいう。

(2021年3月現在)

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